人称3
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2.人称

2−3.「人称代名詞」の正体

ポルトガル語文法を考えていると、某グルメ漫画を思い出すことがあります。「人称代名詞」で言えば、

  • A:「えー、ご存知のように、ポルトガル語の人称代名詞としては、1人称のeu, nós、2人称のtu, vós、3人称のele(s), ela(s)がありまして、、、」
  • B:「ウハハハ!eu, nós, tu, vósが人称代名詞だと?Cさん、こんなチンピラの言うことを真に受けていると、本当の文法を見誤りますぞ。」
  • C:「いやワイはただ、、、こらまたなんとも、、、」
  • A:「名前や一般の名詞のかわりに、話し手や聞き手のことを示す言葉だと言っているだけだ。それのどこが悪い?」
  • B:「名前や一般の名詞のかわりだと?フフフ。語れば語るほど馬脚をあらわしおるわ!」
  • A:「じゃあ、本当の文法に合った人称代名詞とやらを見せてもらおうじゃないか!」
  • B:「『人称代名詞』か、、、フン。まぁ、よろしい。では、、、」
  • D:「B氏のあの自信ありげな様子は、どういうことかしら?eu, nós, tu, vósが人称代名詞じゃないってだけじゃなく、まるで『人称代名詞』なんてないと言わんがばかりだわ。Aさん、きっとこれにはワケがあるのよ。」
  • A:「フン。そんなもん、ただの言いがかりにきまってら!」

人称の交替

Antônioというひとりの男性が、子である姉妹をまとめて説教しているとき、

  1. Eu estou zangado.
  2. O papai está zangado.

    どちらとも言えます。この場合、動詞の活用を見れば、2つの文の主語の人称が替わっていることがわかります。一方、怒られている姉妹が顔を見合わせて、

  3. O papai está zangado.
  4. Ele está zangado.

    と言うときには、人称の交替は起きていません。そして、それに聞き耳をたてている隣家の噂好きのオバさんは、

  5. Antônio está zangado.
  6. Ele está zangado.

    などと言いふらすかもしれません。ここでも人称の交替は起きていません。

    これらの現象は、4のeleが、3のo papaiの代理として登場しており、6のeleが5のAntônioの代理をしているという考え方と合致する一方、あるいは、そう考えればこそ、1のeuが2のo papaiあるいはAntônioの代理となっているとは言えなくなります。

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人称名詞と代名詞

そこで、eu, nós, tu, vós も名詞であると考えたらどうでしょうか。

  • 共通点
    • m. または f. の文法性がある
  • 相違点
    • 部分集合をつくる修飾語とともに現れることがない
      • × eu maior, nós vermelhos など
    • 代名詞がない
    • 共起する動詞がそれぞれ固有の活用をする

ということから、eu, nós を「1人称名詞」、tu, vós を「2人称名詞」と呼んでみましょう。そうするとその他の名詞は「3人称名詞」ということになりそうですが、特徴があって名づけるわけではないので「(その他の)名詞」ということで充分とも言えます。また、「(その他の)名詞」の代理として登場する、ele, o, lhe などについても、「3人称代名詞」と呼ぶ必要はなく、「代名詞」のみでも充分でしょう。これを表にまとめると次のようになります(複数、与格、対格、所有格等は省略)。

名詞 1人称 2人称 3人称
m. f. m. f. m. f.
eu eu tu tu すべての 

m. 名詞

すべての 

f. 名詞

代名詞   ele ela

このように考えれば、電話での決まり文句にも説明がつきます。

  • Aqui é Jorge que está falando. ○
  • Aqui sou Jorge que estou falando.  ×
    • 固有名詞を含む全ての名詞は3人称である
  • Antônio está aí?
    • É ele mesmo. 
    • Sou eu mesmo.  ×
      • 3人称である名詞、固有名詞(男性)の代理を務める代名詞はeleである。
      • 自称詞で3人称

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格変化が共通しても

eu, nós, tu, vós と、ele(s) ela(s)には、主語の位置に現れるときと、目的語として現れるときとで語形が変化する、という共通点があります。覚える利便のためにこの共通点に注目するのは有効ですが、これを理由に「人称代名詞」とひと括りにすると、上記のような問題に立ち戻ってしまうので、よろしくありません。

また、ここに主語の位置に現れる場合を例にひいたのは、動詞の活用という状況証拠が見やすく、説明しやすいということからであって、例えば自称詞としての(3人称)名詞が目的語の位置に現れることがない、ということではありません。

(弟を出産した直後の母親の様子をうかがいに、パウリーニョがやってきて、、、)

Paulinho correu ao quarto.

- Venha cá, meu filho.

Aproximou-se como un criminoso.  Ela o acariciou com demora, puxou-lhe a cabeça, beijou-o na testa.

- Seja bom com seu irmãozinho, meu filho.  Ajude a mamãe...

("Rua do Sol" / Orígenes Lessa)

ここでの a mamãe は、Ajudar の直接目的語(対格)であり、母親が自分のことを指している自称詞であり、(3人称の)名詞です。

あるいは、(夜遅くまでテレビを見ようとする息子に父親が体罰を加え、、、)

- Você me bateu...

- Bati porque você mereceu.  Já acabou, pare de chorar.  Foi de leve, não doeu nem nada.  Peça perdão a seu pai e vá dormir.

("Hora de Dormir" / Fernando Sabino)

ここでの seu pai は、pedir の間接目的語(与格)であり、父親が自分のことを指している自称詞であり、(3人称の)名詞です。

同じ意味で、"Ajude-a." "Peça-lhe perdão." と言うことは、あまり普通ではありません。ただ、これは、文法的に無理ということではなく、繰り返しや念押しのために、一旦、自称詞としての普通名詞を使うという、実際的な動機を経ているので、さらにそれを代名詞で言い換える必要性が(通常の場面では)生じないため、と言えるのではないでしょうか。

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(蛇足ながら、冒頭の結末)

  • C:「さすがはBはんや。人称や代名詞ちゅうことだけやのうて、電話の決まり文句のことまで解決してしまいよってからに。」
  • A:「クッ。初心者に提示する上での利便性ということにこだわりすぎたか、、、」
  • B:「わかったか、A。その場その場で都合のよい話に飛びついて、全体でのバランスを考えない、貴様らしい話だ。ワハハハ!」
  • D:「でもAさん。B氏はこうやってポルトガル語の文法をわかりやすく考えるみちすじを示してくれているのよ。ありがたいと思わなきゃ。」
  • A:「フン。あの男に、そんな情があるもんか!初心者をいたぶって面白がっているだけさ!」

果たして、Aの言うように、初心者をいたぶって、面白いなんてことがあるものでしょうか?いや、池上教授には感謝するばかりであります。そもそも、この例えですが、論点がどこにあるかを理解しやすくしようとしてのもので、当然フィクションです。実在の人物、某漫画の登場人物、作者様などを、揶揄する意図はございません。

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