曜日の話
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曜日名の話

ポルトガル語の曜日名は、他言語と明らかに「毛色」が違います。ポルトガル語既習者にとっての他言語習得、他言語既習者にとってのポルトガル語習得にあたって、ちょっとした障害となる部分の一つです。しかし、なんでこうなるのでしょうか。そもそも、多くの言語でほぼ共通して見られる曜日名にはどのようないわれがあるのでしょうか。

  English français italiano  español português
Monday lundi lunedì lunes segunda-feira 
Tuesday mardi martedì martes terça-feira 
Wednesday  mercredi mercoledì miercoles quarta-feira 
Thursday jeudi giovedì jueves quinta-feira 
Friday vendredi venerdì viernes sexta-feira
Saturday samedi sabato sábado sábado 
Sunday dimanche domenica domingo domingo 

英語を例にとりますと、月、土、日、すなわちMoon, Saturn, Sunの三つは暦の元祖の一つであるエジプト暦の名残だといいます(日月はともかく、Saturnがそんなにさっさと決まったというのは、ちょっと怪しいですが)。そして、残り4つに、Saturnからの連想で(?)星と相関する神々の名前が配されたというのですが、いつ誰がどう決めたのかはよくわかりません。sabado-domingo系、そしてポルトガル語に見える第2-第6系は、後記のとおり、キリスト教に関わるものですから、そのキリスト教が放逐しようとした土着習慣であった曜日呼称も紀元前後にはある程度成立していたと見るべきでしょう。そして、往時の文物の流れのスジからして、(ここには挙げていませんが、まずギリシャ語、続いて)俗ラテン語でその対応作業が行われ、それに合わせて決めてられていったのかもしれません。とりあえずローマ諸神(英語名)とゲルマン(チュートン系古英語と北欧神話)のそれとを併記しておきます。

  ローマ系 チュートン系(北欧系)
Mars Tiw (Tiu)
Mercury Woden (Odin)
Jupiter Thur (Thor)
Venus Frigg (Frey / Freya)

一方のポルトガル語での曜日ですが、これはキリスト教での(ある時期の)公式呼称に沿ったものです。唯一神につかえる(しかもむやみにその名を口にするなという)キリスト教的規範からすると、やれ「戦の神」だ、「美の神」だと、毎日毎日「邪神」にお祈りをするような習慣は排除すべしとされても不思議はなく、実際、教皇シルウェステル1世の時代(314年〜335年)には、キリスト教式の曜日呼称使用が義務化されたといいます。その語源・起源は、アラム語で記されたユダヤ教の記述にまでさかのぼれるそうです。ユダヤ教の週は土曜日基準だということで、その順番で並べます。

  ユダヤ教 キリスト教
sabbatum feria septima (sabbatum)
prima sabbati Dominica (feria prima)
secunda sabbati feria secunda
tertia sabbati feria tertia
quarta sabbati feria quarta
quinta sabbati feria quinta
sexta sabbati feria sexta

(池上岑夫『ポルトガル語とガリシア語』<Serafim da Silva Neto História da Língua Portuguesa』より)

このような対応から、まず、起源的なところはわかったといえそうです。現在見るような feiraという言い方も、一般語彙でいう「市」ではなく、「(第n)平日」といった意味合いを持っていたものと推定できます。また、「第n日」ということだと、火曜日はterceiraじゃないのか、という疑問についても、宗教用語として別口で、よりtertiaに近いterçaが定着していったというスジが考えられそうです。

さて、ポルトガル語における、「キリスト教式曜日呼称」の定着具合の「特別な強さ」について、池上教授は『ポルトガル語とガリシア語』の中で、ポルトガルはブラーガの聖ビセンテ教会にある7世紀の碑文にsecunda feriaの記載があることを挙げていらっしゃいますが、私の感覚ですと、教会の碑文というくらいだから「それくらいやって当たり前ではないか(失礼)」という疑問は残りました(宗教令から300年経っても使われているというのは確かに「定着」でしょうが)。

例えば「秋葉原あたりで、千代田区役所の職員が『歩きタバコ』をしない」ということを指して、「千代田区では路上禁煙が見事に定着した」とは言えず、それを言うなら「千代田区の生活者あるいは訪問者が路上喫煙をしない」という現象によるべきで、、、。

実際、少し離れた『アルスター(北アイルランド)年代記』の中にも「aKI Ienair b(.1)f., luna I.b(一月一日第一平日第一の月)」といった記述が見られるようです。むしろ、池上教授も続けて記述していらっしゃるように、その後の「たゆまぬ布教努力」でついに一般語彙にまで定着させたという点に特異性を見るべきでしょう。

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